【5分でわかる】疫学とは何か?集団レベルで健康を読み解く学問

Dr.しーぼると(MD, PhD)
外科医|疫学研究者|産業医・労働衛生コンサルタント
地方旧帝大を卒業後、「東京の御三家」で初期研修を行い、その後は市中病院で外科医として診療に従事。基礎系博士号を取得し、現在は公衆衛生系大学院にて疫学研究を行う一方、産業医・労働衛生コンサルタントとしても勤務。
「基礎医学」「臨床医学」「社会医学」を横断してきた経験を活かし、疫学に関するテーマを初学者にもわかりやすく解説します。

こんにちは!Dr. しーぼるとです。

みなさんは、「疫学」ときいて何を思い浮かべるでしょうか?医師ならば、学部生時代の公衆衛生学の講義で一度は習ったはずです。しかし、大学院生として研究を始める頃には、すでに脳内記憶は臨床の知識で占拠されてしまっていて、おぼろげな授業の風景だけが残っているのではないでしょうか?少なくとも私はそうでした…。

臨床系Labや、まさに疫学を扱う社会医学系Labに配属された方には必須ですが、基礎系Labに配属された方であっても、疫学とそれに関連する領域の知識は持っていて損はないと思います。多くの基礎系研究者にとって、これらは日頃の研究生活で学習に割くメモリがない部分です。そんな方々は本記事で疫学のイメージを作っていただけると思います。

目次

疫学(epidemiology)とは?

民衆の上で起こっていることを明らかにする科学

疫学(epidemiology)」という言葉を初めて耳にしたとき、私自身は「感染症に関する学問」というイメージを強く抱いていました。しかし、現在の疫学はそれにとどまらず、がんや生活習慣病、認知症、さらには健康増進や予防医療まで多様な分野に広がっています。

その原点と意義を、語源からひもといてみましょう。

語源から考える疫学

疫学(epidemiology)という語は、以下の語源から構成されています。

epi = 「上に」(接頭語)
demi = 「民衆」(例:democracy=民主主義)
ology = 「学問」(接尾語)

つまり、epidemiologyとは教科書上は「民衆の上に何が起こっているかを明らかにする学問」と言い換えることができます。

これに対し、日本語の「疫学」という訳語は、「疫=感染症」と結びついており、やや限定的なイメージを与えるかもしれません。実際、「免疫」も「感染症に二度目に罹ることを免れる」ことに由来しています。

こうした背景から、疫学は元々「感染症の流行形式(epidemic)」を明らかにする学問として発展しました。

疫学は感染症だけの学問ではない

現代の疫学は、次のように定義されます。

「明確に規定された人間集団の中で出現する健康関連のいろいろな事象の頻度と分布、およびそれらに影響を与える要因を明らかにして、健康問題の諸問題に対する有効な対策樹立に役立てるための科学」
(『はじめて学ぶやさしい疫学 改訂第3版』より)

この定義からも分かる通り、疫学は感染症だけでなく、あらゆる「健康と病気」に関わる現象を、集団レベルで科学的に理解するための学問です。

古典から現代へ

世界中のあらゆる疫学の教科書に必ず出現するのが、ジョン・スノウです。疫学の祖であり、疫学に携わる人で彼の名前を知らない人はいません。

英国の麻酔科医で、1854年、ロンドンで発生したコレラ流行時、感染者の居住地を地図にプロットし、汚染された井戸の存在を突き止めました。

病原体が未知でも、観察により感染源を推定し、封鎖によって流行を収束させました。

イングランドのジョン・スノウ縁の地には彼の名前を冠したバプがあり、疫学者が “聖地巡礼” としてしばしば訪れることで有名です(私は未訪問です…行ってみたい)。

一方、日本では脚気に関しての功績で高木 兼寛が有名です。

明治時代の日本の軍医。脚気の原因が分からない中で、栄養改善により脚気の予防に成功。実地の比較研究により、後にビタミンB1欠乏が原因と判明する先駆けとなりました。

これらエピソードは、原因がわからなくても、観察と比較により予防は可能であることを示す、疫学の原点です。

COVID-19が疫学の重要性を再認識させた

2020年以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は、まさに疫学の力を世に再認識させる状況をもたらしました。

◾️ 感染者数、致死率、基本再生産数(R0)といった指標
◾️ マスクや行動制限の効果を検証する観察研究や介入研究
◾️ ワクチンの有効性を評価するランダム化比較試験(RCT)
◾️ サーベイランスによる発生動向のリアルタイムモニタリング

これらすべてが、疫学の視点と手法によって支えられていたのです。

このように、疫学は「ただの学問」ではなく、現実の社会や政策、医療の意思決定を支える根拠(evidence)を提供します。

まとめ

疫学は “人と社会” を理解するためのツール

疫学は、「誰が、いつ、どこで、なぜ病気になるのか?」という問いに答えるための科学です。医療の枠を超え、政策、教育、産業保健、さらには環境問題まで、あらゆる健康課題に応用されます。

感染症だけでなく、慢性疾患、健康格差など現代の複雑な健康課題を解決するために、疫学はこれからますます重要になるでしょう。

Dr.しーぼると(MD, PhD)
外科医|疫学研究者|産業医・労働衛生コンサルタント

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この記事を書いた人

外科医 | 疫学研究者 | 産業医・労働衛生コンサルタント
地方旧帝大卒
→ 「東京の御三家」で初期研修
→ 市中病院で外科医として勤務
→ 基礎系博士号取得
→ 公衆衛生系大学院で疫学研究

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